<海外県政調査の報告>

所見または提言……あとがきにかえて(5)

5.自治体の主権における彼我の違い。
 ご存じのように、ドイツは連邦国家である。我が国でも、連邦制や道州制の創設を唱える声が少しずつ出始めているが(本県の松沢知事もそのひとりだが)、ドイツの州、そして都市の強い自立性は、これまで多くの識者によって論じられてきた通りである。
 中世の昔から、ドイツには国家としての統一志向や民族意識がほとんど見られない。ヨーロッパで比較しても、ドイツには、ロンドンやパリやローマのように強大な影響力を持つ首都が、過去の歴史の中にないのである。それが、現在の連邦主義の基盤となっていると言っていいだろう。ベルリンでさえ、第二次世界大戦が終わるまでのわずか70年間、ドイツ第三帝国の首府が置かれていたに過ぎないのだから。

 また、歴史上の都市国家だけでなく、ドイツには城を中心に栄えた都市も多く、「一国一城」という意識からか、独立心も旺盛である。たとえば、バーデン・ヴュルテンベルク州の中を見ても、環境政策などは、各都市で競い合うように、独自の施策を打ち出している。その中には、州そして連邦の政策に強い影響を及ぼすものもある。
 現在、ドイツには16の州(旧西ドイツ11、旧東ドイツ5)がある。この16州は、それぞれ連邦基本法に従って決められた独自の憲法を持っている。外交、国防、通貨という連邦当局が担当する部門を除き、特に文化・教育・職業訓練といった分野では各州とも広範囲な権限を持っている。
 我が国の「地方分権」は、まだ緒についたばかりである。連邦制、道州制の是非はともかく、「県」という自治体が、市や町、村に対し何をなすべきか、国との関係をどのように保つべきかなど、ドイツの州や都市の機能からは、今後も学ぶべきところが多い。


 縷々、書き連ねてきた報告書も、このページを以って終了させていただく。内容的に散発的になってしまった感はあるが、「視察」はこれを以って完結するものではなく、今後の県政を考えていく上での「端緒」である。そういう意味では、あえて結論をまとめず、事実や所見を淡々と記録する手法をとったが、是非、ご了承いただきたいところである。

 最後になったが、今回の県政調査において絶大なるお力添えをいただいたWest Wind Touristik GmbH(フランクフルト)の吉永俊之氏と、随行職員の石合昇一氏ほか議会事務局の方々、そして、このような機会を与えてくださった県議会の先輩・同僚議員と、県民の皆さまに心より感謝を申し上げたい。