<海外県政調査の報告>調査の記録

12.予算の1割を「文化」に遣う都市。


所見7
「文化立県」をめざすために
ここではマクドナルドも街の景観を壊さないように建物のデザインに配慮している
 事業内容が必ずしも一致していないので、単純な比較はできないが、参考までに神奈川県の県民部文化課と教育庁生涯学習文化財課の予算を合わせて約36億円である。ハイデルベルクの金額は、何かの間違いではないかと思うほどだ。
 しかし、ドイツ第4の都市であるKÖln市(ケルン、人口約100万人)も、2000年の数字ではあるが、総予算約32億ユーロ(約4320億円)のうち文化保護予算は1億5000万ユーロ(約202.5億円、総予算の4.7%)なので、都市の規模や性格を考えると、ハイデルベルクの数字は別に不思議ではない。
 ケルンはこの予算で、8つの博物館と美術館、5つのギャラリー、6つの舞台を持つ市立劇場、それにオペラハウスなどを維持している。大型施設で予算をほとんど費消してしまうので、文化芸術そのものにあまりお金が回らないらしい。すでにケルン交響楽団は民間の有限会社になっている。 ドイツでは、企業メセナなしに、文化・芸術の振興は考えられなくなってきている。
 ちなみに、ケルンの子ども向けオペラハウスは、日本のヤクルトが全額、資金を提供したので<ヤクルトホール>と呼ばれている。

ロマンティックな雰囲気の漂うカールテオドール橋
 小泉首相が「日本も世界の先進文化国に遜色のないような文化予算のきっかけをつくってみたいという意欲が湧いてきた」と発言してから5年がたつ。
 日本でも文化芸術振興基本法が制定され、文化芸術の担い手を応援する文化予算も、2003年度には1,000億円を突破するなど、徐々に拡充が図られてきている。企業メセナも、遅ればせながら普及してきた。政府が予算で支援するフランス型。寄付税制活用の米国型。日本は、その両方を生かす独自の文化芸術振興を、今後、目指していくべきである。
「日本は伝統的に芸術家を大切にしない土壌があり、芸術家が育っていくには“苦しい国”だ。芸術家は“勝手”には育たない。保護して育てることが大切だ」と言ったのは作家の浅田次郎氏である。国や自治体による支援の重要性を物語る言葉として、私たちは重く受け止めなければならない。

 今回、訪問したドイツの都市や、フランスのストラスブール市等の事例から学んだのは、学問や芸術や固有の景観・環境など、「文化」を大切にすることが、地域のステイタスを上げることに直結するということだ。その効果は、これまで記してきたとおりである。何につけても元を取ることばかり考えるのは、いささか品格に欠けるとは思うが、金をかける以上、その効果を見極めるのが私たちの仕事である。
 しかし、その場合でも、あまり気を急いてはいけない。文化や芸術の振興は、おそらく、じわじわと効き目の出てくる政策なのだ。じっくりと、次の、そして、そのまた次の世代に繋がるような、骨太な施策を練っていかなくてはならない。それでこそ、誇らしき郷土の伝統を築けるのである。
 厳しい財政事情のなかではあるが、“文化立県”神奈川にふさわしい予算を確保していけるよう、私たちも頑張りたい。