<海外県政調査の報告>調査の記録

1.水の値段、ドイツと日本。(1)

EWR AG Wasserwerk Bürstadt
Wasserwerkstraße, Bürstadt

10月18日(月)
水源の7割が地下水
いよいよ調査に出発
(インターコンチネンタルホテル玄関にて)
 いよいよ、今日から調査の開始だ。心配された雨は、ホテルを出る頃にはやんでいたが、それでも梅雨時のような空。いつ降り出しても不思議ではない。

 最初の訪問先は、フランクフルトから南に約50km、Hessen(ヘッセン)州Bürstadt(ビュアシュタット)市。エネルギー供給会社<EWR>社が経営する水道水の製造・供給工場、いわゆる浄水場である。その名も<Wasserwerk Bürstadt>=ビュアシュタット水工場。ちなみに、EWRとは、「Energie zum Wohl der Region」を約めたもので、地域繁栄のエネルギーとでも訳せばいいのだろうか。

浄水場の一帯に広がる豊かな水源の森
 アウトバーンを出て、まっ平らな田園地帯をしばらく走ると、雑木林の茂る一帯があり、そのなかに目指す浄水場はあった。敷地内には森が広がり、小さなお城のような社屋も建っている。全体に小ぢんまりとしていて、村の学校のような風情である。
 さっそく、同社の水の「マイスター」、ハンスさんにお話を伺う。専門技能を高く評価するドイツには、さまざまな職種にわたって「マイスター制度」が適用されているが、「水」にまでそれがあるとは、少なからず驚きである。
 この浄水場は、2005年で、操業開始から100周年を迎える。1905年に、EWRと、ビュアシュタットとはライン川をはさんで対岸に位置するRheinland-Pfalz(ラインラント・プファルツ)州Worms(ヴォルムス)市が出資をして設立した。ヴォルムスの名は『ニーベルンゲンの歌』やルターの宗教改革などで耳にした方もいるだろう。

森の中の小さな浄水場
 ヴォルムスまではライン川の水底に渡したパイプラインを使って水を送るほか、ビュアシュタット、そして隣接するランパートハイムと、合わせて11万6,300人の市民に、水道水を提供している。「水の豊かな土地」というケルト語に由来する市名をいただき、ライン川にもほど近いヴォルムスが、なぜ、対岸からわざわざ水を送ってもらっているのか。そこにはドイツの水源事情が深く関わっている。
 ドイツでは、一部のアルプス地方を除いて、基本的に水道の原水を河川から直接、取り込むことはしない。「川の水は三尺流れれば水神様が清めてくれる」という“信仰”は、長大な国際河川を持つ国には通用しないようだ。では、どうするのか。掘るのである。井戸を掘って汲み上げるのである。

水のマイスター、ハンス氏
  私たちも後日、訪れることになるのだが、ドイツ、スイス、オーストリアの三国に岸を接する、ボーデン湖という琵琶湖より少し面積の小さな湖がある。一時期、水質汚濁の危機にさらされたが、今では浄化に成功し、きれいな水を湛えている。この湖は、北に直線距離で約150km離れたシュトゥットガルト市などの水源となっているが(供給人口500万人以上!)、湖水をそのまま送っているわけではない。湖底を60m掘って水を汲み上げているというのだ。こうして、上水道の約7割を地下水に頼っている。
 ここビュアシュタットでも、同様に浄水場周辺の保護林に設置した8か所の井戸を使って、135mの地下から水を汲み上げている。ビュアシュタットの東に広がるOdenwald(オーデンヴァルト)の森林地帯は、標高こそ最高で626mに過ぎないが、広葉樹を中心とした豊かな混交林が特徴だ。そこに貯えられた水は伏流水となってライン川を目指す。一方で、保護林じたいにも雨や雪が降るから、その下は地下水の巨大なタンクになるのだ。つまり、質・量ともに豊かな水を、ヴォルムスはライン対岸に求めたのだとも言える。