民意のつくられかたと読み解きかた。
(3月26日)
『輿論と世論 日本的民意の系譜学』
 佐藤 卓己 書 新潮選書
「いまの日本に必要なのは、空気より意見、セロンよりヨロンなのだ。」という帯の文に惹かれて本書を手に取った。「セロン」と「ヨロン」は、ともに「世論」で、読み方の違いだけだと思っていた自分の無知を恥じた。
 戦前は、輿論(よろん=public opinion=公的な意見)と世論(せろん=popular sentiments=大衆的な感情)は区別して使われていたという。
 理性や論理性にもとづく「輿論」に対し、「世論」は感性や気分によってつくられると言ってもいいだろう。
 ところが戦後、「輿」という漢字が当用漢字から外され、代わりに「世」という字を当ててしまったことから、両者の混同は始まった。
 果たして、いまの日本の「世論」はセロンとヨロン、どちらに近いのだろうか。真っ当な論理よりも、いわゆる世間の空気が国の政治を動かしているとは言えないだろうか。
 「世論」に迎合し、「世論」を無批判に報じることで、付和雷同の「世論」を拡大再生産しているメディアの責任も重い。著者は「世論」から自立し「輿論」を立ち上げることが新聞の使命だという。
  国民の8割が反対、あるいは賛成という「世論調査」が報じられたとき、果たしてそれが「輿論」なのか「世論」なのかを考えることは、民意を読み解く力となっていくことだろう。